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ep35 もうひとつの変化

Author: 根上真気
last update Last Updated: 2025-05-04 08:41:25
【10】

王子来訪以来、エミルは城外にある人気のない空き地によく足を運ぶようになっていた。

リザレリスを取り巻く状況が変化したことと並行して、エミルの心境も変化していた。もっとも彼の場合は、個人的な感情に起因していた。

「精が出るな。エミル」

そこへディリアスがやってきた。すでに空は夜に染まっていた。

「ディリアス様。お忙しいところ、こんな時間にお呼び立ていたしまして申し訳ございません」

エミルは動作を止めて、ディリアスに体を向けた。綺麗なエミルの白い顔は火照り、汗が滴り落ちている。

「今は私たちだけだ。そんなに堅い言葉使いはしなくていい」

「そうですね、先生。それでは早速ぼくと手合わせ願いませんか?」

エミルは意気込んで構えるが、肩で息をしていた。ディリアスは吐息をつく。

「少し休憩を取りなさい」

「嫌です」生贄の美少年は、熱い青少年の眼差しを向けた。「すぐにやらせてください」

「そんなに悔しいか」

 ディリアスに訊かれ、エミルは拳をギリギリと握りしめる。

「ぼくは王女殿下の生け贄であると同時に護衛です。それなのに......」

「フェリックス王子に敗北してしまったと」

「はい......」

「戦いではないのだがな」

「ぼくの唯一の取り柄である魔法で出し抜かれてしまったのは事実です。フェリックス王子にとっては取るに足らないことなのかもしれませんが、ぼくにとっては......」

「まるで想い人を取られてしまったような顔をしているな」

「なっ、いや、ち、違います!」

図星だと言わんばかりに慌てふためくエミルを見て、ディリアスは嬉しそうに頬を緩めた。

「あの王女殿下が、あの一件でフェリックス王子とお前を比べたと思うか?」

「......そうは思いません。これは、ぼく自身の問題なんです」

エミルは視線を逸らして、唇を噛んだ。

「つまり、このままでは王女殿下に相応わしい男ではないから修行し直している。こういうことだな?」

「はい」

「リザレリス王女殿下の意中の男性になるためにはもっと頑張らなければ。こういうことだな?」

「はい。......えっ??」やっと言葉の意味を理解したエミルは、またもやあたふたと焦り出した。「そんな分をわきまえない大それたこと、ぼくは!」

「では、久しぶりに手合わせするか」と唐突に切り替えたディリアスは、エミルに向かい構えて見せた。

「ぼ、ぼくをから
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